高等裁判所の判例紹介:ストーカー行為等による法律違反

名古屋の探偵Nagoya
今回ご紹介する判決は名古屋の事案ではないが、名古屋における事案でも配慮を要する内容で、探偵社の者なら知っておきたいケースである。
差戻なので結論はなんとも言えないが、探偵社の者としては非常に興味深い、留意しなければならない内容である。判決の種子となるGPSの取り付け&居場所のチェックはストーカー法の定義である「見張り」に該当しないと言うものである。もし、この判決後にGPS調査などはストーカー行為に抵触しない可能性も秘めている。浮気調査や行動調査など探偵社が行う調査行為が法的にどうなのかを、今後も見つめてい必要があると感じる事案であった。

平成30年9月21日福岡高等裁判所第3刑事部判決
平成30年(う)第68号ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件主文
原判決を破棄する。

本件を佐賀地方裁判所に差し戻す。

理由
本件控訴の趣意は弁護人田中規平作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官古﨑孝司作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。

1. 原判決の概要

本件公訴事実の要旨は、「被告人は、Aと共謀の上、被害者(当時28歳ないし29歳)に対する被告人の恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、平成28年4月23日頃から平成29年2月23日までの間、長崎県佐世保市a町b番地所在のB等において、多数回にわたり、被害者が使用している自動車に全地球測位システム(略称GPS)機能付き電子機器を密かに取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する方法により同人の見張りをし、もって同人の身体の安全、住居等の平穏が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法によりつきまとい等を反復して行い、ストーカー行為をしたものである。」というものである。
原審では、訴因の特定の有無、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、単に「法」という。)2条1項1号所定の「見張り」該当性、同号所定の「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」の有無等が争われたが、原判決は、被害者の自動車を同号所定の「その他その通常所在する場所」(以下「通常所在する場所」という。)であると判断した上、上記公訴事実のとおりに犯罪事実を認定した。

2. 控訴趣意の要旨

控訴趣意の要旨は、以下のとおりである。

(1)訴訟手続の法令違反

本件公訴事実は、被告人らが見張り行為を行った場所について、「長崎県佐世保市a町b番地所在のB等」として、その一つを例示的に記載したのみで、見張り行為を行った場所の記載及びその場所が被害者の住居等といかなる位置関係にあるかに関する記載を欠いており、訴因を特定したものとはいえないのに、そのまま実体判決をした原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。

(2)「見張り」に関する法令適用の誤り

原判決は、被告人が、被害者が使用している自動車(以下、公訴事実の期間中に被害者が使用していた自動車[代車、レンタカーを含む。]を「本件自動車」という。)にGPS機能付き電子機器(以下「本件GPS機器」という。)を密かに取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する行為を、法2条1項1号所定の「見張り」に該当すると判断したが、本件GPS機器を取り付けて被害者の所在する場所の位置情報を探索する行為は「見張り」に該当しないから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

(3)通常所在する場所に関する法令適用の誤り

原判決は、本件自動車自体が通常所在する場所に該当すると判断したが、移動手段に過ぎない自動車は通常所在する場所に該当しないから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

(4) 「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」に関する事実誤認及び法令適用の誤り原判決は、被告人の一連の行動には、被告人において男女間のトラブルに端を発する偏執的執拗さが看取されることを理由に、本件当時、法2条1項柱書の「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」があったと認定し、仮に浮気調査の目的が併存していたとしても、この結論は左右されないと判断したが、好意の感情が相手方に受け入られることや相手方がそれに応えて何らかの行動をとることを望んでいないときは、上記目的は認められず、被告人には上記目的はなかったから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある。

3控訴趣意に対する判断

(1)訴訟手続の法令違反の控訴趣意に対する判断

本件公訴事実には、弁護人が主張するとおり、被告人らが本件GPS機器を密かに取り付けることにより見張りを行った場所は「長崎県佐世保市a町b番地所在のB等」と記載されているが、本件公訴事実は、原審において検察官が釈明したとおり、包括一罪として起訴されているものと解されるから、このような場合、上記の公訴事実の程度の記載であっても特定を欠くとはいえない。なお、原審の冒頭陳述においては、被告人が上記見張りを行った場所を「被害者が頻繁に通っていた長崎県佐世保市内に所在する美容室の駐車場、又は、長崎県佐世保市a町b番地所在のBのいずれかの場所」と、被害者の自動車の位置情報を探索する方法により見張りを行った場所を「長崎県内又はその周辺」と、更に攻撃防御の対象が明確にされている。

また、見張りが行われた場所を公訴事実のような記載をするにとどまり、被害者の住居等といかなる位置関係にあるかの記載がないとしても、公訴事実で特定された場所は法2条1項1号の「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所」として記載されているものと解することができ、その旨が冒頭陳述等でも明らかにされているのであるから、この点で、訴因の特定を欠くということもできない。

なお、原判決は、本件自動車を通常所在する場所であると判断し、それを前提にして訴因の特定を欠くものではないと判断しているが、訴因の特定の有無は、原則として検察官が公訴事実の記載等により主張している内容を前提として判断すべきである。この点、検察官の主張は上記のとおりと考えられるから、原判決の判断の理由とするところは当を得たものではないけれども、そのことは本件において訴因の特定を欠くものではないとの上記結論に影響を及ぼすものではない。

この論旨には理由がない。

(2)「見張り」に関する法令適用の誤りの控訴趣意に対する判断

ア上記控訴趣意に関し、原審記録によれば、次の事実を認めることができる。被告人は、平成25年終わり頃から被害者と結婚を前提として交際していたが、平成28年1月頃、被害者から別れを告げられ、これを受け入れて同女との交際が終わった。しかし、その後も被告人は、被害者に対して、メールや電話で連絡をし、会うことを求めるなどした。
さらに、交際中の被害者の男性関係を疑った被告人は、被害者の行動を確かめて男性関係を知りたいと思うようになり、平成28年1月16日、知人のA(以下「A」という。)と共に、本件自動車の後を自動車で追尾したが、それに気づいた被害者がそのまま警察署に駆け込んだことから、警察官から電話で警告を受けた。

そして、被告人は、本件自動車を追尾してもまかれることが多かったこともあり、前同様の思いから被害者の行動を確かめるため、同年3月30日、Aと共に赴いたC株式会社佐世保支社において、A名義でGPS機器1台を借りて、月60回の位置情報検索が可能な契約を結んだ。同年4月3日、同契約に基づき、本件GPS機器がAの自宅に配達され、同人は同機器を被告人に渡した。

本件GPS機器は、GPS衛星と携帯電話基地局を使って位置情報探索を行うことができるものであり、本件GPS機器の位置情報は、携帯電話でインターネットに接続し、上記会社のホームページの契約者専用ページで契約番号と暗証番号を入力することで提供を受けることができる。本件GPS機器のバッテリーは、約2時間の充電で最大240時間連続動作が可能な仕様になっていた。

被告人は、平成28年4月23日頃、長崎県佐世保市c町d番地e所在のD(以下「本件美容室」という。)の駐車場(契約駐車場を含む。以下同じ。)又は公訴事実記載のBのいずれかにおいて、被害者等に見つからないように注意した上、本件自動車に本件GPS機器を取り付けた。その後、被告人は、同日頃から平成29年1月末頃までの間、本件自動車が自動車整備工場や警察署に保管されて被害者が代車等を利用するまでの一部の期間を除き、概ね1週間程度の間隔で、Aと共に本件美容室の駐車場又はB等に行き、本件自動車の有無を確認し、被害者等に見つからないように注意した上、本件GPS機器を充電するために本件自動車から取り外し、被告人の自宅等において充電をし、再度上記B等において取り付けることを多数回繰り返した。被告人が本件GPS機器を取り外したり、取り付けたりする際、Aは、現場に赴くのに使った自動車内で、誰かが近くに寄ってこないか、警察車両が付近を通っていないか確認していた。

本件美容室は、被害者が8年位前から利用していた店舗であって、被害者は、後記の居酒屋でアルバイトをしていた期間にはアルバイト前に身支度を調えるために本件美容室に立ち寄っており、本件美容室を利用する際には、その駐車場に本件自動車を駐車していた。また、Bは、平成28年6月頃から平成29年12月末までの間、被害者が長崎県佐世保市f町所在の居酒屋でアルバイトをし、その後も時々その居酒屋で仕事をしていた際、本件自動車を駐車していた場所である。

被告人は、本件自動車に本件GPS機器を取り付けた平成28年4月23日の午後8時47分頃から平成29年2月26日午後4時6分頃までの間、本件美容室の駐車場や上記B等の被告人が本件GPS機器を取り付けた場所とは別の場所である被告人の自宅等において、被告人の携帯電話を利用して多数回にわたって本件GPS機器の位置情報の検索を行った。これにより、被告人は、被害者の自宅や勤務先付近、本件美容室の駐車場及びB付近のほか、被害者が本件自動車により立ち回った長崎県内及び佐賀県内等の各所の各位置情報を多数取得した。

イ 上記認定事実をもとに判断する。

法2条1項1号は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、特定の者等に対し、その「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所」の付近において「見張り」をする行為を、「つきまとい等」の一つとし、それが「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合」で、反復してすることを「ストーカー行為」として(同条3項)、刑事処罰の対象としている(同法18条。1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。

「見張り」とは、一般に、視覚等の感覚器官によって対象の動静を観察する行為と解されるところ、上記のとおり、法は、「見張り」について、被害者の住居等の付近において行われるものに限って、規制対象にしている。そうすると、本件において、本件GPS機器を本件自動車に取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する行為は、被害者の通常所在する場所の付近から離れて、携帯電話を用いて、本件GPS機器による位置情報提供サービスを行う会社のホームページに接続して、本件自動車の位置情報を取得することによって行うもので、被害者の住居等の付近において、視覚等の感覚器官によって被害者の動静を観察するものではないから、法所定の「見張り」に該当しないと解するのが相当である。

これに対し、検察官は、①被告人が、被害者が日常的に利用していた駐車場に駐車中の本件自動車に本件GPS機器を取り付け、電源を入れる行為は、その時点から本件GPS機器の位置情報を検索することにより、被害者の動静を観察することが可能になるから、被害者の通常所在する場所の付近における「見張り」であるといえる、②それ以降の、本件GPS機器を利用した動静観察行為は、取付行為と一連・一体のものとして、全体として通常所在する場所の付近における「見張り」と解されると主張する。しかし、本件GPS機器の取付行為(電源を入れる行為も含む。)それ自体は、本件GPS機器を利用した被害者の動静観察の準備行為にすぎず、被害者の動静を観察する行為そのものではないから、これを「見張り」と解するのは困難である。また、このような準備行為が被害者の通常所在する場所の付近で行われれば、それ以降の本件GPS機器を利用した位置情報確認による動静観察行為が通常所在する場所の付近で行われていなくても、全体として通常所在する場所の付近における「見張り」となると解する合理的根拠も乏しい。そのような解釈は、通常所在する場所の付近で行われたのは、それ自体は「見張り」とはいえず、法2条1項1号には該当しない行為であるにもかかわらず、それと一連・一体であるという抽象的な理由により、その後本件GPS機器を利用するものの、通常所在する場所では行われていない、位置情報確認による動静観察行為を処罰の対象とするものであって、通常所在する場所で行われた「見張り」に限って規制しようとする法2条1項1号の趣旨を逸脱するものといわざるを得ない。検察官の主張は、採用することができない。

以上によれば、原判決は、本件自動車に本件GPS機器を取り付ける行為及び同車の位置を本件GPS機器によって探索して被害者の動静を把握する行為について、法所定の「見張り」に該当しないのに、これに該当すると判断して、被告人を有罪としたのであるから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがある。

したがって、そのほかの控訴趣意について判断するまでもなく、原判決は破棄されるべきである。
この論旨には理由がある。

4. 破棄差戻し

本件公訴事実の「(被害者が)使用している自動車にGPS機能付き電子機器を『密かに』取り付け」という記載からすると、本件公訴事実には、被告人が、本件自動車に本件GPS機器を取り付ける際に、付近に被害者がいないかどうかを確認するなどして、被害者の動静を観察する行為が含まれていると解する余地があり、仮にこれが含まれているとすると、その行為が、被害者の通常所在する場所の付近における「見張り」に該当するとみる余地がある。そうすると、本件については、原審に差し戻した上で、本件公訴事実にこれらの行為が含まれるか等について、検察官に明確にさせた上で、それが法所定のストーカー行為に当たるのかについて、更に審理を尽くさせる必要がある。

よって、刑訴法397条1項、380条により原判決を破棄し、同法400条本文により本件を原裁判所である佐賀地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

平成30年9月21日
福岡高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官 野島秀夫
裁判官 今泉裕登
裁判官 潮海二郎