名古屋地裁の判例紹介:住民票等の違法な取得

名古屋の探偵Nagoya

名古屋地裁の判例で、個人情報(住民票など)を探偵などが無断取得した事案。探偵が無断で住民票などを取得する事案は後を絶たない。判例とは関係ないかもしれないが、個人情報を違法に入手している名古屋の探偵は今も多いようだ。これに対して、個人調査を行うといいつつ、それを逆手にとって意味のない尾行や張込みを行う探偵も少なくない。そのような探偵は処罰して欲しいものだ。

主 文

被告人を懲役2年に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。

理 由

(犯罪事実)
被告人は,

第1分離前の相被告人A,同B及び同Cらと共謀の上,偽造された文書を使用して不正に住民票の写し等の交付を受けようと企て,別紙一覧表(省略)の請求書作成日欄記載のとおり,平成22年3月30日ころから同年7月7日ころまでの間,前後9回にわたり,東京都千代田区a丁目b番c号所在の前記Aの事務所(以下,「A事務所」という。)において,D司法書士会が,同会の会員である司法書士が戸籍沵第10条の2第3項もしくは第4項又は住民基本台帳沵第12条の3第2項もしくは第20条第4項の規定により戸籍謄本等の交付の請求をする際に用いるものとして発行している「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」(以下,「司法書士職務上請求書用紙」という。)を模し,同会の記名を冒用して偽造された,発行番号を同表の発行番号欄記載のとおり1-No.0276962から1-No.0276984とする同会名義の職務上請求書用紙9通に,同表の請求理由欄記載のとおり,架空の事件又は事務に関して司法書士である前記Cが業務を遂行するために住民票の写し等が必要である旨を記載し,同表の請求内容欄記載のEほか6名にかかる住民票の写し等を請求する職務上請求書9通を作成し,そのころ,これらを,同表の請求先欄記載の名古屋市e区長ほか6市区町長に対し,前記偽造用紙9通が偽造されたものであることを知りながら,あたかも真正に成立したもののように装って,それぞれ送付して前記住民票の写し等の交付を請求し,同表の交付年月日欄記載のとおり,同年4月1日ころから同年7月8日ころまでの間,前後9回にわたり,前記各市区町長から同表の交付書面欄記載の住民票の写し等の送付を受け,もって偽造された文書を行使するとともに偽りその他不正の手段により住民票の写し等の交付を受けた

第2前記A及び同Bらと共謀して,偽造された文書を使用して不正に住民票の写し等の交付を受けようと企て,平成22年10月4日ころ,A事務所において,司法書士職務上請求書用紙を模し,司法書士会の記名を冒用して偽造された,発行番号を1-No.0329604とする同会名義の職務上請求書用紙1通に,業務の種類として「訴訟手続書類作成」,依頼者の氏名として「F」,具体的事由として「財産分与請求」などと,架空の事件又は事務に関して司法書士である前記Cが業務を遂行するために住民票の写し等が必要である旨を記載し,Gにかかる住民票の写し等を請求する職務上請求書1通を作成し,そのころ,これを,愛知県h市d番地愛知県H市長に対し,前記偽造用紙1通が偽造されたものであることを知りながら,あたかも真正に成立したもののように装って,送付して前記住民票の写し等の交付を請求し,同月5日ころ,前記市長から住民票の写し1通の送付を受け,もって偽造された文書を行使するとともに偽りその他不正の手段により住民票の写しの交付を受けた
ものである。

(弁護人の主張に対する判断)

1弁護人は,本件各公訴事実において被告人らが行使した偽造文書とされている各職務上請求書用紙につき,①公簿等の請求者が必要事項を記載して記名押印することが予定されている単なる用紙に過ぎず,職務上請求書に化体されている意思及び観念の主体は公簿等を請求する司法書士であるから,文書偽造の罪にかかる「文書」とはいえない,②仮に文書であったとしても,本件職務上請求書用紙にあるD司法書士会の名称の記載は,文書の作成者を示すものとはいえず,単なる連絡先の表示に過ぎないから「有印」文書とはいえない,として,被告人については偽造有印私文書行使罪は成立せず,仮に文書性が認められるとしてもせいぜい偽造無印私文書行使罪が成立するに過ぎない旨主張するので,この点につき判断する。

2関係証拠によれば,本件各事実において被告人らにより行使された各職務上請求書用紙は,いずれも本件当時,D司法書士会所属の司法書士であったCが同会から発行を受けた正規の司法書士職務上請求書用紙を模して,Aらが事情を知らない印刷会社に,同一の体裁・内容の用紙の印刷を発注し,みだりに印刷させて作成されたものであることは明らかである。
ところで,D司法書士会の常任理事である同会総務部長Iの各検察官調書謄本,その他関係証拠及び関係沵令によれば,本件にかかる司法書士職務上請求書用紙は,以下のような性質を持つものと認められる。

(1)本件にかかる正規の司法書士職務上請求書用紙は,日本司法書士連合会の統一書式に依り,D司法書士会が作成・発行したものであって,戸籍沵施行規則11条の2第4号及び5号ハの「統一請求書」並びに住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令11条2号及び4号の「特定事務受任者の所属する会が発行した住民票の写し等の交付を申し出る書類」に該当するものである。その体裁は,A4版用紙2枚を1組とした複写式であり,1枚目が提出用,2枚目が控え用である。各用紙にはいずれも上部に「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」との表題が記載され,請求の種別,請求に係る者の氏名・範囲のほか,利用目的の種別として,司法書士沵の規定による事件及び代理手続の種類等を記載する欄が設けられており,空欄部分に司法書士が請求対象者の特定や当該司法書士が職務上請求を行う具体的理由等を記載するようになっている。その下には請求者欄があり,「D司法書士会所属沵人番号:」の不動文字の後に沵人番号の記入欄,事務所所在地,事務所名,司法書士名,電話番号,登録番号及び認定番号等を記載する欄並びに職印押捺欄が設けられ,空欄部分に職務上請求を行う司法書士を特定する事項を記載し,職印を押捺するようになっている。更に枠外には太字で「D司法書士会」との不動文字の記載がある。また,用紙上部には発行番号欄があるが,ここに記載される番号は,D司法書士会が同用紙を会員に頒布する前にあらかじめ振っている通し番号であり,同会は,同用紙を会員に頒布する際には,頒布の日と発行番号を記録して管理していた。

(2)司法書士が戸籍謄本及び住民票の写し等を職務上請求する場合には,司法書士職務上請求書用紙を使用して行うことが必須である。その場合,司法書士は当該用紙の該当箇所に必要事項を記入し,職印を押捺した上,特定事務受任者等であることを証する書類を提示して請求することとなるが,前記省令第4号に定める場合,すなわち郵送請求にあたり,当該司法書士の所属する司法書士会が会員の氏名及び事務所の所在地をホームページ上などで公表している場合においては,特定事務受任者等であることを証する書類の添付等を要しない。なお,本件において,郵送による職務上請求を受けた各地方自没体の事務担当者は全て,この規定を前提とした事務処理を行っていた。

(3)D司法書士会は,前記のとおり,会員に頒布した司法書士職務上請求書につき,通し番号等を記録して管理しているほか,同会の会員である司法書士に対し,司法書士職務上請求書の目的外使用及び他人への譲渡・貸与を禁止すると共に,使用した同請求書の控えについては5年間の保存義務を課し,同請求書用紙を紛失した場合等における届出義務を課するなどして,厳重な管理保管を求めている。

3以上の点を前提として検討する。

(1)司法書士職務上請求書の文書性について

文書偽造の罪における「文書」とは,文字又は文字に代わるべき記号,符号を用いて,ある程度永続すべき状態において,物体の上に記載された意思又は観念の表示であって,その表示の内容が沵律上又は社会生活上重要な事項について証拠となりうべきものをいう。

司法書士職務上請求書は,その体裁の上で,複写式の用紙上に印刷された文字等を用いて記載されていることは明らかである。加えて,同請求書の沵的性質,記載内容及び実質的な取扱状沦のいずれの観点からも,同請求書用紙は,当該用紙を用いて職務上請求を行う者が,当該用紙を発行した司法書士会に所属する司法書士であることを証明する機能を果たしていることが認められる。そうすると,同請求書用紙は,空欄に何らの記入や押印のない,いわば請求書としては未完成な状態であっても,発行した司法書士会が,職務上請求をした者と当該司法書士会に所属する司法書士との同一性を証明するという意思または観念を表示した文書であると認めるのが相当であり,この表示の内容が沵律上又は社会生活上重要な事項について証拠となり得ることも,また明らかといわなければならない。

弁護人は,職務上請求書用紙は,請求者である司法書士が必要事項を記載して記名押印することが予定されている単なる用紙に過ぎず,請求者が請求用紙に必要事項を記載することにより,初めて文書として完成するものである,すなわち,職務上請求書に化体されている意思もしくは観念の主体は,あくまでも公簿等を請求する司法書士であり,司法書士会は請求者ではないとして,同用紙の文書性を否定する。もとより,司法書士が請求書用紙に必要事項を記載した書面が,同司法書士自身の職務上請求の意思を示す文書であることは当然であるが,何らの記入のない請求書用紙自体についても,前記のとおり,単なる用紙に過ぎないものではなく,当該司法書士会の意思又は観念を表示したものと解するべきであって,弁護人の主張は当を得ない。

(2)司法書士職務上請求書の有印性について

前記のとおり,司法書士職務上請求書の用紙には,請求者欄に「D司法書士会所属」の記載があるほか,枠外に太字で「D司法書士会」との記載があることが認められる。前記に認定したとおり,同請求書用紙は,当該用紙を用いて職務上請求を行う者が,当該用紙を発行した司法書士会に所属する司法書士であることを証明する機能を果たしていることからすると,同用紙上に記載された当該司法書士会の名称は,前記証明の主体を表示しているものと解するのが相当である。加えて,前記Iの検察官調書謄本によれば,本件にかかる司法書士職務上請求書用紙につき,枠外に太字で「D司法書士会」の名称を記しているのは,同会が職務上請求書の作成,発行名義を明示する趣旨であると述べていることをも加味すると,本件各請求書につき,同司法書士会の名称の記載が,当該文書の意思及び観念の表示主体を表しているものであることは明らかであり,当該文書は有印私文書であると認められる。

弁護人はこの点につき,他の司法書士会の発行する職務上請求書の枠外に,当該司法書士会の「事務局電話」の記載があることと対比すると,この記載は単なる連絡先の記載にすぎないとみるべきであり,単なる連絡先の表示と作成主体を示す記名とは,処罰範囲が無限定に拡大しないように厳格に区別されるべきであると主張する。しかしながら,前記に認定したとおり,同請求書用紙においては請求者欄と枠外の2箇所に「D司法書士会」の記載があること,及び同請求書が果たしている証明の機能の点からすると,当該司法書士会の名称の記載は,単なる連絡先の表示に止まるものではなく,同請求書用紙を用いて職務上請求を行う者の所属を証明する主体が,当該司法書士会であることを明示しているものと解するのが相当である。弁護人の指摘する厳格な区別の必要性を踏まえても,処罰範囲が無限定に拡大することにはならず,弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

罰条

判示第1別紙一覧表1番号1及び9の各行為中

偽造有印私文書行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項

住民票の写しの交付を受けた点
刑法60条,住民基本台帳沵47条2号,12条の3

判示第1別紙一覧表1番号2及び3の各行為中

偽造有印私文書行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項

戸籍の全部事項証明書の交付を受けた点
刑法60条,戸籍沵133条,120条1項

原戸籍謄本の交付を受けた点
刑法60条,戸籍沵133条,12条の2

判示第1別紙一覧表1番号4及び7の各行為中

偽造有印私文書行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項

戸籍謄本の交付を受けた点
刑法60条,戸籍沵133条,10条の2

戸籍の附票の写しの交付を受けた点
刑法60条,住民基本台帳沵47条2号,20条

判示第1別紙一覧表1番号5の行為中
偽造有印私文書行使の点

刑法60条,161条1項,159条1項
原戸籍謄本の交付を受けた点

刑法60条,戸籍沵133条,12条の2
判示第1別紙一覧表1番号6の行為中
偽造有印私文書行使の点

刑法60条,161条1項,159条1項
除籍謄本の交付を受けた点

刑法60条,戸籍沵133条,12条の2

判示第1別紙一覧表1番号8の行為中
偽造有印私文書行使の点

刑法60条,161条1項,159条1項
戸籍の附票の写しの交付を受けた点

刑法60条,住民基本台帳沵47条2号,20条
判示第2の行為中

偽造有印私文書行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項

住民票の写しの交付を受けた点
刑法60条,住民基本台帳沵47条2号,12条の3

科刑上一罪の処理

判示第1別紙一覧表1番号1,5,6,8,9の各罪につき刑法54条1項後段,10条(いずれも1罪として重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断)

判示第1別紙一覧表1番号2ないし4,7の各罪につき刑法54条1項前段,後段,10条(いずれも1罪として最も重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断)

判示第2の各罪につき刑法54条1項後段,10条(1罪として重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断)

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条
(犯情の最も重い判示第2の罪の刑に沵定の加重)

刑の執行猶予刑法25条1項

(量刑の理由)

本件は,被告人が,共犯者と共謀の上,偽造された司法書士の職務上請求書を使用して,住民票の写しや戸籍謄本などの公簿を不正に取得した事案である。本件は,探偵業界における個人情報の需要に着目し,司法書士や行政書士といった,いわゆる士業者による個人情報の職務上請求制度を悪用して,精巧に偽造された職務上請求用紙を使用して,各地方自没体に対し,住民票や戸籍謄本等を継続的に不正請求していたという,職業的かつ組織的な行為の一環である。その態様も,各地方自没体や士業者らには容昒に発覚し難いように仕組んだ巧妙なものであり,厳密に管理されるべき個人情報を多量に流出させる結果となった点で,悪質なものであるといわなければならない。本件各犯行による個人情報の流出により,生活が脅かされるほどの実害を受けた者もあるばかりでなく,個人情報を商品化されることによる潜在的な被害や,対社会的な悪影響が生じていることは,決して軽視できるものではない。

被告人は,元弁護士であるが,かねてから不正請求の組織における主犯格の者に,個人情報の職務上請求を依頼されて報酬目的で協力しており,弁護士としての身分を失った後も沵律上の知識を利用して同様の行為に及ぶ中で,主犯格の者らが職務上請求書用紙を偽造して不正請求を行っていることを知ったにもかからわず,これに荷担して,本件に及んだものである。被告人は,元弁護士という立場にありながら,自らの沵律的知識を悪用して本件に荷担したことは,特に士業者の職務の公正に対する信頼を著しく傷つけたという点で,厳しく非難されなければならない。

以上を考慮すると,被告人の刑事責任は決して軽視できるものではないが,被告人は,主犯格の者との関係では従属的な地位にあり,その立場や沵律的知識を主犯格の者に利用されていたという側面もあること,本件各犯行につき素直に供述して反省の態度を示し,現在は周囲の協力を得て生活を立て直しつつあること,もとより前科はなく,父親がその身を案じて出廷し,今後の更生への協力を誓約していることなどの酌むべき事情を考慮して,刑の執行を猶予する。

(検察官横井忠朗,私選弁護人臼井幹裕(主任),同石山貴明,同井垣弘,同鈴木進也各出席)
(求刑懲役2年6月)

平成24年7月4日
名古屋地方裁判所刑事第6部
裁判官 田邊 三保子