名古屋地裁の判例紹介:損害賠償請求事件

名古屋の探偵Nagoya

 

名古屋地裁の債権関係の事案だがI探偵とは何処の探偵でしょうか?
その探偵は債権情報の調査を上手くできたのでしょうか?
証拠説明書を見れば探偵社の名前はわかるので、是非機会があれば名古屋地裁で事件閲覧を行い調査したいと思います。興味ある名古屋地裁の探偵が絡む事案です。

 

平成23年 第6962号損害賠償請求事件

判決主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1  請求

被告は、原告に対し、金24万2168円及びこれに対する平成22年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

1 本件は、弁護士である原告が、被告に対し、原告が申し出て行われた弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士会照会)に対して被告又はその従業員が必要な事項を報告しなかったのは違法であるなどと主張して、民法709条又は715条に基づき、損害賠償金24万2168円及びこれに対する不法行為日である平成22年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提となる事実(各項末尾に証拠等を記載のもののほかは、当事者間に争いがない。)

(1) 当事者等
ア 原告は、A県弁護士会所属の弁護士である。
イ 被告は、クレジットカードの発行等を業とする株式会社であり、そのグループ会社と共に「Bカード」という名称(ブランド)のクレジットカードを発行している。
ウ 株式会社Cは、ゴルフ場の経営等を業とする株式会社であり、Dクラブのゴルフ場を経営していた(甲1の1、9の2)。

(2) Eは、平成21年、原告を訴訟代理人として、株式会社Cに対して資格保証金850万円(以下「本件保証金」という。)の返還を求める訴訟を名古屋地方裁判所(平成21年第6656号)に提起し、平成22年2月26日、株式会社Cに850万円及びこれに対する平成21年10月31日から支払済みまで年6%の割合による金員の支払を命ずる仮執行の宣言が付された判決(以下「別件判決」という。)が言い渡された。そして、平成22年
3月1日、別件判決に執行文が付与された(甲1の1、2)。

(3) 原告は、平成22年3月4日、A県弁護士会に対し、Eから債権差押命令申立事件の委任を受けた弁護士として、弁護士法23条の2第1項に基づき、次のアの理由により、被告に対して照会して、次のイの事項(以下「本件照会事項」という。)の報告を求めることを申し出たところ、同弁護士会は、同申出を適当と認め、被告に対して照会(以下「本件照会」という。)して、次のイの事項の報告を求めた(甲2の1ないし3、甲5)。

ア 照会を求める理由Eは、株式会社Cに対し、別件判決に基づき、いつでも強制執行をなしうる地位にある。株式会社Cは、Dクラブのゴルフ場を経営しているが、そのゴルフ場の
利用料の支払についてはFカード、Gカード、Bカードの利用が可能となっている。したがって、Dクラブを信用販売を行う店舗又は施設として、株式会社Cと上記3つのカード会社との間で加盟店契約が締結されていることになる。
Eは、株式会社Cがクレジット会社との間で締結した加盟店契約に基づき、クレジット会社に対して有するゴルフ場利用料に係る請求権について債権執行をし、その執行によりEの株式会社Cに対する別件判決に基づく請求権の回収を実現することを計画している。
そのため、株式会社Cが加盟店契約を締結しているクレジット会社を特定するため、本照会をする。

イ 照会を求める事項
貴社のカードブランドの一つである「Bカード」は、Dクラブのゴルフ場施設を加盟店としている。このことを前提として次の事項について照会する。

(ア) 照会事項1
Dクラブと加盟店契約をしているのは、貴社であるか、あるいはBカードグループの会社であるのか。Bカードグループの会社であれば、そ の会社の商号と所在地を回答願う。

(イ) 照会事項2
D クラブと加盟店契約を、貴社あるいはBカードグループとしている、相手方当事者である法人の商号と所在地を回答願う。
また、上記加盟店契約の契約締結日が分かるのであれば、契約締結日についても回答願う。

(4) 被告は、セキュリティセンター加盟店管理グループの名で、A県弁護士会会長に対し、平成22年3月9日、本件照会事項について、「顧客との守秘義務により、お答えできません。」と回答した。なお、上記回答の際、上記センターの責任者は責任者Hであった。

(5) 原告は、被告に対し、平成22年3月12日付け「警告書」をもって、本件照会事項への報告拒否を再考するよう求めたが、被告は、セキュリティセンター加盟店管理グループの名で、原告に対し、同年3月24日付け「回答書」において、「顧客との守秘義務により、お答えできません。」と記載して回答した。

(6) 原告は、平成22年5月13日、探偵業を営む株式会社Iに対し、「Jシージー」の加盟法人名及び加盟契約しているクレジット会社の解明を依頼した。
そして、株式会社Iは、原告に対し、①株式会社Cは、Bカードの取扱について、K株式会社と加盟店契約をしている模様であること、②顧客に発行する売上票に記載される加盟店名は「Jシーシー」であること、③株式会社Cのゴルフ会員権については、グループ会社である株式会社Lが窓口の模様であることを報告した(甲9の1、2)。

(7) Eは、平成22年5月ころ、原告を代理人として、別件判決に基づき、株式会社CがK株式会社との間で締結した加盟店契約に基づいてK株式会社から支払を受けるべきカード利用による売上債権の譲渡代金債権又は立替払請求権について、名古屋地方裁判所豊橋支部に債権差押命令の申立てをし、同月31日、債権差押命令(平成22年第189号)が発せられた。
K株式会社は、第三債務者の陳述において、上記差押債権は存在せず、K株式会社の加盟店契約の相手方は株式会社Lであり、株式会社Cとは取引がないと陳述した(甲10の1ないし3、弁論の全趣旨)。

(8)Eは、平成22年8月ころ、原告を代理人として、別件判決に基づき、株式会社Cが株式会社Lとの間でDクラブのゴルフ場の運営業務に関して締結した業務委託契約に基づき支払を受ける売上金返還請求権について、名古屋地方裁判所豊橋支部に債権差押命令の申立てをし、同月6日、債権差押命令(平成22年第279号)が発せられた。株式会社Lは、第三債務者の陳述において、上記差押債権について、プレーフィ等のDクラブの利用料金のうちクレジットカード支払分の立替払金返還請求権等(債権額2829万2327円)が存在するが、株式会社Lの株式会社Cに対する貸金返還請求権等との相殺のため、弁済の意思はないと陳述した(甲11の1ないし3、弁論の全趣旨)。

(9)Eは、平成22年8月24日、原告を訴訟代理人として、株式会社C及び株式会社Lに対し、株式会社Cと株式会社Lとの間で平成18年ころに締結されたゴルフ場の運営業務に関する業務委託契約が詐害行為に当たるとして、本件保証金の返還請求権及びこれに対する遅延損害金を被保全債権とし、同契約を888万8438円の範囲で取り消した上、株式会社Lに対して同額の金員を支払うことを求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した(平成22年第5893号)。

そして、この訴訟は、平成23年4月19日、株式会社CがEに対して解決金850万円の支払義務があることを認め、その金員の支払に代えて同額の小切手を交付したなどとの内容の訴訟上の和解により終了した(甲12、13)。

3 争点

(1) 被告又は責任者Hが本件照会事項について報告しなかったことは違法な行為か。
(2) 被告や責任者Hに故意又は過失があるか。
(3)原告の損害の有無及び金額、被告又は責任者Hの行為によって各損害が生じたか。

4 当事者の主張

(1) 争点(1)(被告又は責任者Hが本件照会事項について報告しなかったことは違法な行為か。)について
(原告の主張)
ア原告は、所属弁護士会に対して弁護士会照会を申し出た弁護士として、弁護士法23条の2に基づき、所属弁護士会に対し、同照会の方法による情報収集権を有する。また、原告は、弁護士会照会による報告を受けることによって、弁護士としての業務を遂行することができるのであり、営業権(私権)を有する。
被告は、本件照会事項について、弁護士法23条の2第2項の報告義務を負うところ、この義務に違反して報告しなかった不作為により、原告の業務を妨害し、原告の上記権利又は法律上保護される利益を侵害し
たから、被告の行為は違法である。

イ 責任者Hは、被告の被用者であったところ、被告における弁護士会照会に対応するための社内ルールを全く無視し、かつ、法律について無知であるにもかかわらず、独自の判断をし、何らの調査等をせず、本件照会事項について報告しなかった。その結果、原告は上記情報収集権又は営業権を侵害されたところ、これは悪質・悪辣な方法による報告義務の不履行といえ、責任者Hの行為は違法である。

ウ 被告の下記主張は否認し、争う。被告は弁護士法上の報告義務を負っており、顧客との間で負っている守秘義務を理由として報告を拒否することは正当化されない。

(被告の主張)

ア 被告の行為は、次のとおり、違法ではない。
(ア) 原告の請求が認められるためには、被告が本件照会事項について報告すべき法的義務が認められることが必要であるが、弁護士法の規定等からすると、被照会者は、照会事項について報告すべき法的義務を負わない。
(イ) 仮に報告義務を認めるべき場合があるとしても、照会にかかる情報が依頼者の権利又は法的利益の回復のために必要不可欠であり、当該照会にかかる情報を入手する方法が被照会者から開示を受けるほかない場合で、かつ、これらの事情が被照会者にとっても明らかである場合等に限られるべきである。しかし、本件がこの要件を満たすものでないことは明らかであり、被告には本件照会事項について報告すべき法的義務はなかった。
(ウ) また、被告には、本件照会事項について報告を拒否する正当な事由があったから、報告義務を負っていなかった。
すなわち、被告は、株式会社Lとの間の加盟店契約において、株式会
社Lの商号、所在地等の情報について保護措置を講じた上で保有等する旨約し、守秘義務を負った。そして、被告は、この情報を秘密として管理することにより加盟店との間の信頼関係を維持し、業務を円滑に遂行する営業上の利益を有しており、かかる利益は憲法上も保障された営業の自由の一内実であるから、被告は営業の自由により本件照会事項について報告を拒否する権利を有する。

本件についてこれをみれば、被告は株式会社Cと加盟店契約を締結しておらず、その相手方は株式会社Lであるから、本件照会事項は照会を求める理由と関連性がないし、株式会社Cに対して債権を有しているにすぎないEに対して被告の守秘義務や営業上の利益を犠牲にして顧客情報を提供する理由はない。したがって、本件照会事項について開示の必要性及び合理性が認められないから、被告は報告義務を負わない。

(エ) 仮に被照会者が弁護士法に基づき報告義務を負うとしても、これは弁護士法が創設した公的義務であって、私的な義務ではない。したがって、被照会者が報告義務を怠ったとしても、照会をした弁護士会の私的な利益等を侵害することはあり得ないし、ましてや、照会を申し出た弁護士やその依頼者は、弁護士会が報告を受けることによる反射的利益を享受するに過ぎず、原告の主張する情報収集権は権利又は法律上保護される利益とはいえない。

イ責任者Hに関する原告の主張は否認し、争う。本件照会に対する回答は、責任者H個人の判断ではなく、被告の判断として行ったものである。

(2) 争点(2)(被告や責任者Hに故意又は過失があるか。)について

(原告の主張)

本件照会の申出書に記載されている照会を求める理由に照らせば、被告は、本件照会事項について報告しなければ、原告が加盟店契約の当事者を調査することができず、原告の業務に支障をきたすことを認識していた。
また、責任者Hは被告における社内ルールを無視し、法律について無知であるにもかかわらず、独自の判断をした。
したがって、被告や責任者Hには故意又は過失がある。

(被告の主張)

原告の主張は否認し、争う。

 

(3) 争点(3)(原告の損害の有無及び金額、被告又は責任者Hの行為によって各損害が生じたか。)について

(原告の主張)
ア 原告は、被告又は責任者Hが本件照会事項について報告しなかったことによって、次のとおり合計24万2168円の損害を被った。
(ア) 本件照会の費用
手数料 5250円 往路郵券代 90円 復路郵券代 80円
(イ) 原告の被告に対する警告書の郵送料 1528円
(ウ) 株式会社Iに依頼した調査の費用
調査料 12万5480円 送金手数料 840円
(エ) 債権差押命令申立て(名古屋地方裁判所豊橋支部平成22年第18
9号)の費用
手数料 4000円 予納郵券 2900円 登記事項証明書 2000円
(オ) 非財産的損害又は精神的損害 10万円 原告は、被告又は責任者Hが本件照会事項について報告しなかったた
め、株式会社Iに対する調査依頼等の種々の事務処理をせざるを得ず、
非財産的損害又は精神的苦痛を被った。

イ 原告は、Eに対し、民法650条1項の費用償還請求権に基づき、上記(ア)ないし(エ)の各費用の支払請求をすることができるが、当該費用が第三者による受任者に対する不法行為によって生じた場合には、その加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることも可能と解すべきである。

(被告の主張)

原告の主張する(ア)ないし(エ)の各費用の金額は不知であり、その余の原告の主張は否認し、争う。上記各費用は、原告がEの代理人として支出したものであり、その費用の負担者はEであるから、原告に損害は生じていない。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(被告又は責任者Hが本件照会事項について報告しなかったことは違法な行為か。)について

(1) 被侵害利益について本件において、原告は、被告が弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会に対して照会事項の報告をしなかったことにより、原告の同条に基づく情報収集権や、弁護士としての営業権が侵害されたとし、これが被告による不法行為となる旨主張している。そこで、まず、原告の主張する上記情報収集権及び営業権が、不法行為法上保護の対象となる権利又は法律上保護される利益(民法709条)に当たるかを検討する必要がある。
そこで検討すると、まず、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会の制度は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命(同法1条1項)を踏まえ、弁護士が受任した事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の収集等をすることを容易にして、当該事件を適正に解決し、ひいては基本的人権の擁護や社会正義の実現といった使命を果たさせることを目的として設けられた公共的性格を有する公的な制度である。そして、個々の弁護士は照会申出権があるにとどまり、照会は、弁護士会が弁護士からの申出を適当と認めた場合に限って行われるものである。そうすると、弁護士法2
3条の2が、個々の弁護士に対して、情報収集権を付与したものとはいえず、原告の主張する情報収集権の存在を認めることはできない。
次に、上記営業権については、何人も営業の自由を有しているところ、特に弁護士業務が基本的人権の擁護と社会正義の実現という公共的性格を有し、法律事務を取り扱うことができる法律専門家であること(弁護士法3条
1項、72条参照)、弁護士が受任した事件の処理に必要な業務を適正に遂行するためには、事実の調査及び証拠の収集等が重要であることに照らせば、弁護士は、受任した事件の処理に必要な調査等を行う利益を有しているというべきであり、これを「営業権」というかはともかく、少なくとも、法律上保護される利益に当たることは否定し難いところである。

(2) 弁護士法上の報告義務及びその性質等

ア 本件で問題とされている被告の行為は、本件照会事項について弁護士会に対する報告をしなかったという不作為であるから、これが不法行為法上違法となるためには、その前提として行為者に作為義務が存在することが必要であり、さらに、作為義務に違反して原告の権利又は法律上保護される利益が侵害されたと評価されることが必要と解される。

イ この点に関し、原告は、被告には弁護士法上の報告義務があったと主張し、被告は、かかる報告義務の存在自体を争っている。
そこで検討すると、上記のとおり、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会の制度は、弁護士の使命(同法1条1項)を踏まえて設けられた公共的性格を有する公的な制度であり、相手方を公務所又は公私の団体に限定し、かつ、報告の請求の主体を個々の弁護士ではなく弁護士会とするなど、適切な運用を図るための手続が設けられていることなどからすれば、被照会者は、同法に基づき、弁護士会に対して照会に対する報告をすべき
法的義務を負うものと解すべきである。
被告は、弁護士法上、被照会者の報告義務を明記した規定がないことや、報告をしなかった者に対する制裁規定がないことから、上記報告義務はないと主張しているが、義務を負うかどうかは規定ぶりのみから決せられるものではないし、制裁は義務違反の効果の問題であって、義務の有無とは別の問題であるから、かかる主張を考慮しても、上記判断は左右されない。また、被告は、仮に報告義務があるとしても、極めて限定された場合に限るべきであるとも主張するが、報告義務の範囲について、このような限定をするべき合理的な根拠は認められない。

ウ さらに、被告は、株式会社Lとの間の契約上の守秘義務を理由に、報告を拒否する正当な事由があったと主張している。
確かに、弁護士会照会は公共的性格を有するものであるが、他方、保護されるべき他の基本的人権や利益と衝突する可能性も否定できず、被照会者は正当な理由があるときは、報告を拒否することができると解される。
この点、Dクラブのゴルフ場を経営しているのは株式会社Cであって、被告又はK株式会社との間で加盟店契約を締結している株式会社L(乙1)ではないから、被告が株式会社Lとの間の加盟店契約に基づき負っている守秘義務を理由として、株式会社Cとの間の加盟店契約の有無等に関する本件照会事項について報告しないことが許されるのか議論の余地がある。
また、これを措くとしても、被告やK株式会社と株式会社Lとの間の契約では、加盟店である株式会社Lにおいて、被告又はK株式会社が各種法令の規定により提供を求められた場合及びそれに準じる公共の利益のため必要がある場合には、公的機関等に加盟店屋号、店舗所在地等の加盟店情報を提供することに同意することが定められている(B加盟店規約(乙1)36条の4前段参照)。そして、弁護士法23条の2に基づき報告を求められた場合が「法令の規定により提供を求められた場合」に該当し、弁護士会が「公的機関等」に該当することは明らかである。
そうすると、株式会社Lは、被告が弁護士会照会に対して報告することにあらかじめ同意していたといえ、被告が本件照会事項に報告することが直ちに株式会社Lとの間の守秘義務違反となるものとはいえず、本件において、被告が、上記守秘義務を理由に報告義務を免れると解することはできない。
エしたがって、被告は、本件照会について、弁護士法上の報告義務を負っていたというべきである。

(3) 不法行為法上の違法性

ア もっとも、上記のとおり、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会の制度は、公共的性格を有する公的な制度であるし、弁護士会照会の報告先が弁護士会であり、しかも、弁護士会が弁護士による照会の申出が適当でないと認めた場合には当該申出を拒絶することができるとされていること(弁護士法23条の2第1項後段)に照らすと、弁護士法に基づく報告義務は、照会を申し出た弁護士やその依頼者の権利又は利益の保護を直接の目的とした弁護士や依頼者に対する義務ではなく、弁護士会に対する公的な義務であると解される。

イ そうすると、弁護士法上の報告義務があり、これに違反して、照会に対する報告をしなかったとしても、直ちにこれが不法行為法上違法であると評価されることにはならない。しかし、弁護士会照会は、依頼者から事件を受任した弁護士の申出により行われるものであり、上記した弁護士の営業上の利益に関係することからすれば、一切、不法行為法上違法となる余地がないとするのも相当でなく、被侵害利益の要保護性、被侵害利益の侵害の程度やその態様、被告の負担や報告によって予想される不利益の程度等の事情のいかんによっては、被照会者が、不法行為法上も報告義務を負い、これに反して報告をしないことが、権利や法律上保護される利益を侵害するものとして違法と評価される場合もあるものと解される。

ウ そこで、以下、本件についての事情を検討する。

(ア) 被侵害利益の要保護性上記で判示したとおり、弁護士が受任した事件の処理に必要な調査等を行う利益は、不法行為法上保護される利益(民法709条)に当たり、上記調査の方法には、弁護士会照会も含まれると解される。しかし、弁護士法に基づく公的な報告義務の内容は規定上明確ではなく(個人情報の保護に関する法律25条、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条参照)、上記利益の具体的な内容が明確であるとは言い難いし、義務違反の場合の罰則等の制裁が規定されているわけでもない。また、弁護士の業務はその性質上、相手方その他の第三者の権利ないし利益との対立を生じることが少なくないのであるから、常に完全な形で上記営業上の利益の享受を他者に主張し得るものではなく、他の競合する権利ないし利益との調和を図る中で容認されるべきものである。以上によれば、原告の法的利益の要保護性が他の権利又は法律上保護される利益に比して特に高いものとはいえない。

(イ) 被侵害利益の侵害の程度
a 次に、本件照会は、Eが、株式会社Cに対する金銭債権の回収を図るために、株式会社Cの財産状況の調査を目的としてされたものであるところ、債務者の財産状況の調査方法としては、民事執行法上、債務者に財産開示を求める制度が規定されているが(同法196条ないし203条)、本件において、Eが債務者である株式会社Cに対して財産開示手続の申立てをしたなどの事情は認められず、Eや原告が、債務者に対する事実関係の調査を尽くしたとまで認めることはできない。
そうすると、本件照会をすることがEの債権回収にとって唯一の方法であったとは認められない。

b また、本件照会の「照会を求める理由」及び「照会を求める事項」によれば、Eやその代理人である原告としては、本件照会において、株式会社Cが被告又はその関連会社と加盟店契約を締結しているか否かを調査すれば足り、株式会社C以外の者の被告又はK株式会社に対する債権の情報まで入手することを目的としてはいなかったものと認められる。
しかるに、株式会社Cが被告又はその関連会社と加盟店契約を締結していたことを認めるに足りる証拠はなく、被告やK株式会社との間で加盟店契約を締結していたのは株式会社Lであったというのである(乙1)。以上のことを踏まえると、被告は、本件照会に対し、被告やその関連会社が株式会社Cとの間で加盟店契約を締結している事実はないとの報告をすれば足りたというべきであるが、原告としては、そのような報告を受けただけでは、直ちにEの債権を回収することはできないことになり、いずれにしてもさらなる調査は避けられなかったと認められる。

以上によれば、被告が本件照会事項について報告しなかったことによって、原告や依頼者であるEが大きな不利益を受けたものとはいえ ない。

(ウ) 侵害の態様上記のとおり、被告やK株式会社と株式会社Cとの間には加盟店契約
があるとは認められないし、被告において、Eによる株式会社Cに対する債権の回収を妨害するとか、原告の営業を妨害するとの意思があったとまで認めるに足りる証拠はなく、被告が、本件照会事項について報告しないと、Eの上記債権の回収や原告の営業に支障が生じることを認識し、又は認識し得たということはできない。

(エ) 被告の負担及び不利益他方、被告は、上記のとおり、本件照会に対し、被告やその関連会社が株式会社Cとの間で加盟店契約を締結している事実はないとの報告をすれば足りたというべきであるところ、このような報告をするために被告において特段の調査をする必要があるとは考えられず、また、このような報告をしたからといって、被告のいうように、株式会社Lに対して負う守秘義務に違反したとして株式会社Lから責任追及を受けるとも考えがたいことからすれば、報告によって被告に生じる負担や不利益が大きいものであるとはいえない。

(4) 以上の事情を総合すると、原告の主張する被侵害利益の要保護性が特に強いとはいえず、原告の不利益の程度が大きいとはいえず、被告による不作為の態様が悪質であるなどともいえないから、本件照会に応じることによる被告の負担や不利益が特段大きいものでないことを考慮しても、被告が、本件照会事項について、不法行為法上も報告義務を負っており、これについて報告しなかったことが原告の法律上保護される利益を侵害したものと評価することはできない。

(5) さらに、原告は、責任者Hが被告の社内ルールを無視し、独自の判断で報告しなかったとして責任者Hの行為が違法であるとも主張するが、本件全証拠によるも、責任者Hが独自の判断で本件照会事項に対する報告をしなかったものと認めるに足りず(被告は被告が報告しなかったものと認めている。)、また、本件照会事項について報告をしなかったことが違法と評価できないことは上記のとおりである。

 

2 したがって、被告及び責任者Hの行為が違法であるということはできないから、その余の争点を検討するまでもなく、原告の請求は理由がない。

第4 結論

以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 佐藤真弘
裁判官 野上誠一
裁判官 武藤明子

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